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ユニバーサルツーリズムとは?国内事例と実践のヒント

「ユニバーサルデザイン」という言葉をご存じでしょうか。「すべての人のためのデザイン」という意味で、年齢・性別・国籍・能力などの違いにかかわらず、皆に使いやすいデザインを目指したものです。

「ユニバーサルツーリズム」は、ユニバーサルデザインの考え方を観光にあてはめたもの。観光庁は、「ユニバーサルツーリズム」を「すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」と定義しています。障がい等を理由に旅行をあきらめることなく、行きたい場所に行って安心して楽しめる環境を整えようという取り組みです。

また2021年5月に可決、成立した改正障害者差別解消法によって、障がい者への合理的配慮の提供が民間事業者に義務づけられるようになりました。これにより国や自治体だけでなく、今後は民間事業者にとっても「合理的配慮」に関する考え方と具体的な対応が重要となります。

ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い

ユニバーサルデザインとバリアフリーは混同されることが多く、日本でのユニバーサルツーリズムの取り組みもバリアフリーを基本としている部分が大きいですが、本来の意味は少々異なります。

バリアフリーは、特定の人にとってのバリア(障壁)を見つけて取り除くという考え方。段差にスロープを付けるのはバリアフリーです。

ユニバーサルデザインは、多くの人にとって使いやすいものをデザインするというコンセプト。最初から段差なくフラットに設計するのがユニバーサルデザインということです。

海外におけるアクセシブル・ツーリズム

「ユニバーサルツーリズム」という言葉は、実は日本語の造語。海外では、「アクセシブル・ツーリズム」、「Tourism for All」という言葉が使われています。

障がいに対する考え方にも違いがあり、日本では人が介助する前提での「バリアフリー」を指すのに対し、海外(特に欧米)では「自立支援」が主流。介助者を同伴しない単独での旅行も珍しくありません。

旅行に対するニーズも、バリアフリーの有無にかかわらず行きたい場所に行くことを重視する傾向があります。お客様がご自身で行けるかどうかの判断ができるよう、バリアの情報も含めた十分な情報提供を行うことが必要になります。

ユニバーサルツーリズムが注目されている理由

ユニバーサルツーリズムが注目されている理由のひとつに、国内観光客・訪日観光客両方の誘致に大きな効果があるということも挙げられます。

国内対象者の市場規模が大きい

2021年のわが国の人口に占める65歳以上の人口は3,640万人、総人口に占める割合は29.1%。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、高齢化率は30%を超えることになります。ユニバーサルツーリズムの推進によって旅行の不安を取り除くことで、旅行意欲が高く、経済的にも余裕がある高齢者を集客することが可能になります。

また、高齢者・障がい者・乳幼児などの数は国内人口の3分の1以上を占めており、これらの方々を含んだ家族旅行やグループ旅行が容易になれば大きなシェアが見込まれます。

訪日観光客の集客・リピーター化

訪日観光客の中にも、高齢や障がいのために旅行に不安を抱える方がいます。さらに、言葉が分からないということでコミュニケーションにも不便を感じることもあるでしょう。

これまで訪日観光客の約8割を占めていた東アジアにおいても今後急速な高齢化を迎えます。

海外では、市街地や観光地でのバリアフリー化が進んでおり、障がいがある人も旅行やレジャーを楽しむ姿が見られます。日本で快適な旅の体験ができれば、訪日観光客の集客やリピーター化にもつながります。

ユニバーサルツーリズムの課題を克服するヒント

ユニバーサルツーリズムを推進する上で、課題の上位に挙がってくるのが「予算」と「ノウハウ」です。これらがネックとなってなかなか取り組めないケースもあるでしょう。最初から完璧を目指さず、予算や手間をかけずにできることから始めるのが重要です。

バリアフリー情報の発信

車いす対応のために階段をスロープにしたり、通路を広げたりといったバリアフリー化ももちろん大切ですが、ユニバーサルツーリズムに必要なのはハード面の整備だけではありません。施設の改修が難しい場合、エレベーターの有無・ドアの幅・浴室の写真などの情報を発信するだけでも良いのです。完璧なバリアフリー設計の設備を用意することではなく、障がいのある方がご自身で判断できるように情報提供をすることもユニバーサルツーリズムの取り組みの一つの方法です。

相手のニーズを知るためのコミュニケーション

どこに行きたいのか・どんな体験をしたいのか……旅行に求めていることは一人一人異なります。また、それを実行するためにどんな困難があるのかということも、想像だけでは分からない部分が多いでしょう。思い込みで対応するのではなく、お客様としっかりコミュニケーションを取り、ご要望をお伺いすることで、ベストな対応が可能になります。ノウハウよりも、目の前のお客様から得られる情報にヒントがあります。

各地のユニバーサルツーリズム取り組み事例

沖縄観光バリアフリー宣言(沖縄県)

2007年、日本で最初に観光バリアフリー宣言をした沖縄県。那覇空港には「しょうがい者・こうれい者観光案内所」を設置し、到着時からバリアフリー情報を得ることができる体制が整っています。ポータルサイトには旅行者向けの情報のほか、事業者向けのマニュアルやセミナー情報も掲載。

『信州型ユニバーサルツーリズム』(長野県)

長野県では、「都会型バリアフリーのようなハード偏重でない、山岳高原・信州ならではのユニバーサルツーリズム」を推進。高齢者や障がい者にとって本来はバリアである山や自然を強みとして生かし、サポート体制を整えて誰でも安心して楽しめるアウトドアフィールドを実現しました。富士見高原リゾートは内閣府の『ユニバーサルデザイン推進功労者』表彰の実績があります。

みやざきアクセシビリティ情報マップ(宮崎県)

「みやざきアクセシビリティ情報マップ」は、宮崎県内のアクセシビリティ情報を総合検索できるサイトです。「だれが?」「なにをする?」「どこで?」を選択すると対象の施設を検索表示。さらに細かいバリアフリー条件も追加することができ、目的・希望に合った施設を簡単に探すことが可能です。

まとめ

多様な旅行者の受け入れが可能なこと、旅行に制約を感じている人のニーズに応えられることは、その観光地のファンを着実に増やしてくれます。また、「合理的な配慮」という観点においても地域を訪れる人々のニーズを適切にとらえるということが今後ますます重要になります。本コラムが各種取り組みを実践する機会となりましたら幸いです。

参考文献:

総務省統計局” 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-”.2021-9-19

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1290.html (参照2022-2-7)


観光庁“ユニバーサルツーリズムに対応した観光案内の実践⽅策”.2017-3

https://www.mlit.go.jp/common/001187407.pdf (参照2022-2-7)


観光庁観光産業課“「バリアフリー旅行サポート体制の強化に係る実証事業」報告書”.2019-3

https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/content/001407565.pdf (参照2022-2-7)


観光庁観光産業課“ユニバーサルツーリズムの促進業務報告書”.2019-3

https://www.mlit.go.jp/common/001284685.pdf  (参照2022-2-7)


兵庫県”ユニバーサルツーリズムの推進に関する検討会「資料2-1」宿泊施設におけるユニバーサルツーリズムに関するアンケート調査結果(速報版)”
https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr16/documents/03reference01.pdf  (参照2022-2-7)


沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課”バリアフリーOKINAWA”

https://okibf.jp/ (参照2022-2-7)


長野県”長野県ユニバーサルツーリズム推進事業”.2022-1-4

https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoshin/universal_tourism.html (参照2022-2-7)


宮崎県福祉保健部障がい福祉課”みやざきアクセシビリティ情報マップ”

https://m-bfree.pref.miyazaki.lg.jp/a_map/public/ (参照2022-2-7)

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